私の患者さん第1号

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私の患者さん第1号

私は昭和大学歯学部を卒業し、開業医での勤務は選ばず昭和大学歯科病院の臨床研修医として大学病院に勤務した。その際、大学病院でしか研修できない口腔外科に在籍し、それと同時に総合診療科という一般の診療にも携わった。外来を2ヶ所かけ持ちしハードな一年目だった。私の記念すべき患者さん第1号は(私にとっては記念だが、患者さんにとっては…)、昭和大学旗の台病院で肺癌と闘病中のSさんだった。下の前歯6本しか残っておらず、上顎は総入れ歯、下顎は部分入れ歯の状態。『先生全然噛めないよ。どうせ死ぬかもだから、俺の身体で勉強して良い先生になってよな!』と下町のおっちゃんは元気に私の肩を叩いた。

口腔外科に進んだが、実は入れ歯を作る補綴科と迷っていた時期があった。それは、私が歯医者になるきっかけを作ってくれた亡き名医、祖父のためだった。群馬県高崎市で内科医として活躍していたが歯は殆んど残っておらず、よく入れ歯を見せて貰った。いつか新しい入れ歯作ってあげたい…。しかし祖父のアドバイス、私の恩師の一人でもある歯学部教授、片岡竜太先生(当時口腔外科講師)の勧めもあり口腔外科に進んだ。

下町のおっちゃんSさんは、肺癌の治療(抗癌剤、放射線療法)約10㎏痩せてしまったとのこと。とにかく入れ歯の作り変え、残った6本の歯周病治療、虫歯の治療と当時の私には盛りだくさんだった。Sさんの貴重な2カ月を頂き何とか治療が終了。しかしそれからSさんは全く顔を見せなくなった。

口腔外科で当時病棟勤務だった私は、口腔癌患者の放射線療法のため、旗の台病院に行く機会がしばしばあった。放射線治療最中は時間が少しとれたので、Sさんの病室をたずねに行った。そこに居たのは…体重が8㎏増え別人のSさん。入退院を繰り返していたが、あと2週間で完全に退院との事だった。『ちょっとすれて痛い所あるけど最新モデルはよく噛めるよ先生!飯食えるって良いよなあ。』と抱きついてきた。

患者さんから勉強させられる毎日。歯医者になって本当に良かった。Iさんはその後、持ち前の元気さで病気を克服した。『先生、よく噛まねえと寿命縮まるって本当だよ!俺が証明しただろ?』病院の食堂でコーヒーを御馳走になり、自分の夢を聞いてくれた。『先生熱いねえ、治療中バンバン伝わってきたよ。今の情熱忘れないでね!』大丈夫ですよ、あの時より熱苦しくなっていますから!

『そういえば髪なかなか生えてこないですね?』

ピカピカのスキンヘッドは抗癌剤によるものでなく『毎晩銀座で酒と煙草やってたらどんどん毛が抜けちまったよ』とゲラゲラ笑っていた…。

5年が経ちSさんの再発もなく、当時のアルバイト先であった綱島駅前歯科医院の近くで待ち合わせした。その時お抱え運転手と真っ黒な高級車。あれ?コンピューター関係の仕事をしているとか言っていた気が…。実はIさん大手映像制作会社の会長さんでした。

『先生、長生きしそうだからインプラントしてよ、さすがにもうできるでしょ?』上下10本のインプラント手術をさせて頂き、若造歯医者が5年前に作った入れ歯を卒業した。

一人一人の患者さんが経験値となり我々医療人はステップUPしていく。今の自分があるのは、今までの全ての患者さんのおかげである。1ヵ月前より今日の自分の方が確実にレベルUPしている。そう感じながら毎日全力で患者さんと向き合いたい。患者さんとは歯以外の事も沢山語り合いたい。多くの患者さんと時間を共有してきたが、第1号患者Sさんは、当時の私に医療人としての自信とプライドを持たせてくれただけでなく、患者サイドから見た医療の本質も教えてくれた。

歯医者は口の中だけ診て治すだけじゃ時代遅れ。その人の人生に携わったからにはその人から学べる事はとことん学ばないと。そしてとことん治す。物の考えが少し変わっただけでも技術は格段に伸びる。モチベーションが違う。

『一患者入魂!』

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